大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)4764号 判決
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〔判決理由〕第二 ところで原告は右契約には被告において代替地を取得して原告に譲渡する旨の特約があつた、そうでなくでも右契約には要素の錯誤があつたと主張するので、以下これにつき検討する。
一、原告の再抗弁(一)について
<証拠>を綜合すると、昭和三七年一月一〇日ごろ被告大阪府において大阪府河内市に新設高等学校設立の内定があり、本件土地を含む同府立花園高等学校用敷地約3,305.78平方米(約一万坪)につき、いわゆる用地買収の話が被告より同市にあつたこと(右買収の話が本件土地についてもあつたことは当事者間に争がない)、そこで同市における用地買収の交渉は同市々会議員である訴外北川辰造らが中心となつてしていたところ、右交渉の過程の中で当初敷地関係地主は代替地を要求しないという世話人間の申し合せもあつたが、その一人である原告が農家として土地に執着を見せ、後日になつて自分の提供土地については見返りとして代替地を提供してくれるよう同訴外人に対し要望したので、同訴外人らが主となり右代替地のあつせん方に尽力し、二、三交渉の衝に当つたがいずれも原告の好んで応ずるところではなかつたこと、しかしその後同訴外人河内市長西尾某、同市助役田口雄三らの口添えもあつて結局同年二月ごろ訴外花園土地株式社会からその所有に係る大阪府河内市九九八番地田1,157.02平方米(一反一畝二〇歩)および右同所九九九番地田1,024.79平方米(一反一〇歩)を提供する旨の申し入れがあつたので、原告も一旦これを受諾する意向を示し、原告所有の本件土地は新設高等学校用敷地として随意処分してくれるよう右北川辰造に申し入れたこと、そこで右趣旨を伝えられた河内市としては敷地買収の話は一応全体的な見通しがついたとの判断に達し愈々敷地関係土地と被告のため買受手続をすることに決し、同年二月一七日右北川辰造方に敷地関係地主に集合して貰つた際、同所において同市々長西尾某、同市助役田口雄三ら立会の許に、予め同市に配布されていた買主を被告としその代表者を大阪府教育委員会教育長鎌田庄蔵とする売買契約書に各関係地主から各関係土地売渡のため、代金、目的物件記入の上各自押印して貰うと共に、河内市の一時立替払により売買代金の内金を各支払つていること、原告も右敷地関係地主の一人としてそのころ右売買契約書(乙第一号証)に調印していること(但し、それが右北川辰造方で行われたかどうかは判然とし難い)が認められこれに反する<証拠>はにわかに措信することができない。
しかし、右認定の事実を以てしても原告主張の特約を認めるには充分でない。即ち、右北川辰造らが訴外花園土地株式会社等に原告のため代替地取得の尽力をしたことは右認定のとおりであるけれども、右北川や河内市当局の尽力は、地元利益に重大な関心事である新設高等学校敷地獲得の為、即ち被告の用地買収を円満に終らせる為、あくまでも原告と代替地提供者との間の売買の成立をあつせんし円満な買収目的遂行に協力するいわば政治的尽力であると解するのが相当であり、本件契約自体に原告主張のような特約が付されたことないし右北川や河内市長らが被告代理人として右特約による被告の義務履行即ち原告に代替地を取得させるもの等と理解することは到底困難であるし、いわんや<証拠>を検討するも原告主張の特約を記載した部分はないからである。そして他に原告の代替地取得の希望が本件契約の特約として原告と被告との間の合意にまで達したと認めるに足りる証拠はない。
すると、原告の再抗弁(一)についてはその余の事実を判断するまでもなく理由がない。
二、原告の再抗弁(二)について
原告が代替地を希望しており、これについては予め本件買収手続が行われる以前に既に河内市長西尾某、同市助役田口雄三らいわゆる河内市当局に知れていたこと、並びに現に原告自身も前記花園土地株式会社との代替地取得交渉をしている他、敷地買収手続も終えた昭和三七年七月任意に同会社提供の土地を断り、訴外安田ミキとの間で改めてその所有地買受けの話合を進めていたことが<証拠>によつて認められるところである。しかし、仮りにいわゆる河内市当局に代理権があると否とを問わずこれらの者に右原告の希望が事前に知られていたとしても、未だ原告が代替地を取得出来ることを本件契約について原告が承諾する動機としてこれを表示して本件契約に応じたことを認めるに充分でない。それはつぎの理由による。
そもそも、代替地の取得は相手方のあることでもあつて希望通りの土地を取得することは容易ではないのであるからこれが本件契約承諾の動機となるためには相当程度明確、具体的な形で表示されなければならないが、
(一) 本件契約は前項認定のとおり約3,305.78平方米(約一万坪)にも及ぶ新設高等学校敷地買収という多数関係地主との間でする大規模な買収手続の一環として行われたものであるから、他の敷地関係地主の多くが右買収に応ずるとなれば、早晩原告としても本件土地の買収に応じないわけには行かない情勢にあつたこと、
(二) 前項認定のとおり原告が被告の右買収に応じたのは、原告と訴外花園土地株式会社との代替取得に関する交渉が好転していた時期即ち昭和三七年二月ごろのことであつて、あえて代替地取得を動機として事改めて表示する必要もなかつたこと、しかもその際原告はなんら留保するところなく本件土地を随意処分してくれるよう右買収の世話役である訴外北川辰造に申し向けていること、
(三) 敷地関係地主のうち代替地の希望者が原告の他にもあつたが、その方法は何れも世話人間で代替地を被告宛要求しない旨の申し合せもあつた手前、関係地主(訴外西岡直章は以下の方法で代替地を取得した関係地主の一人である)が関係土地を被告に売却した代金等で被告との売買契約とは別途に適宜関係地主自身が適当な土地を見付けて買うことであつたところ(このことは<証拠>によつて認められる)、原告自身の代替地取得の方法も右と同様前掲世話人間の申し合せのあつた手前(原告自身右申し合せには反対であつたが)本件契約とは別途に考えられていたと推認されること、
以上の事情から、原告の代替地の希望は本件契約成立より以前に話題にのぼつた単なる要望であつて、本件契約において原告が必らず代替地を取得することを本件契約の承諾をするについての動機として表示したとみることはできないからである。
原告主張事実に符合する<証拠>はにわかに措信することが出来ず、他に原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
<中略>
すると、原告の再抗弁(二)についても理由がないことに帰する。(増田幸次郎 杉本昭一 宗哲朗)